24SS-25AWの話
24SS a little bit…
24AW POWERED ELEGANCE
25SS Blooming Colors
25AW add my wordrobe
24SSの展示会は一つの節目となった。
写真家の原田教正さんの撮影、TOR DESIGNによるlook bookの作成と、YOKE Galleryでの展示会を通じて、「Post Productionの美意識とはなにか」を可視化することを目指したタイミングでした。
この展示会に向けて書き下ろしたいくつかのステートメントは、自らに言い聞かせるような文章でもあり、写真と共に今もブランドにとっての羅針盤となっている。
このシーズンはFACE Sandalsという新作はあったものの、それよりもブランドの定番デザインを、「モノそのものとして」写しとるような記録をまとめておきたいと思った。ブランドの美意識を純度高くエンドユーザーに伝えていくためのビジュアライズ。これを中心に据えることで、その外側で自由にやって良いという感覚を得ることができた。
24AW 【POWERD ELEGANCE】
前回、a little bit…と題したように「2つの要素の間で”少しだけ”バランスを傾ける」ようなところが自分のデザインにはあると考え至ったところから、「より力強く」好きなバランスを主張したくなった。
綺麗なものは綺麗に作る、という「エレガンス」の表現を。
Side Zip Bootsで意識したのは2008年〜2010年ごろまでのモード。当時のLANVINやRaf Simonsが手掛けたJil Sanderが見せたのは、縦のシルエットを強調するコートや細身のテーラードを軸に、艶感と分量のある生地は身体の動きを見せつつ膨らみは抑制されシルエットを際立たせる。身体に忠実で構築的な実に西洋的なエレガンスだ。
この後の2010年代は言わずもがなのストリートとモードの融合の時代が到来し権威的な西洋の美を覆した。エフォートレスという言葉がトレンドになったように、構築的な服はファッションの中心から少し距離がある時代。コロナ禍のステイホームはそんな状況の極大化でもあったように思う。そんな時を経て、2008-2010年ごろのモードを感じさせるブーツがこのシーズンの主役。綺麗なものを綺麗に作る。それが難しい時代はすぐそこに来ている。
25SS 【Blooming Colors】
シックなカラーパレットとなった24AWの反動から、夏らしい生命力溢れる色鮮やかな展開を試みた。「ミニマル」と言われることも多かったこれまでの見え方からは意外性だったかもしれないが、季節の移り変わりでガラッとモードの変わる自分らしい展開だと思う。
メンズシューズの世界は基本「艶黒」。ドレスシューズともなればコンサバティブたるべしではあるものの、もっと「おもろく」ていいのではないかと思い続けてきた。
色展開を考える時は黒を軸に据えつつ、そのシーズンのムードや実売の予想も踏まえて決めていく。その取捨選択を放棄してみたくなった。思いついたものを「出してみる。」トーンマナーを崩すと「ブランドのイメージ」なるものが(存在するとして)散らかるのではないかいう不安もありながら、やってみようと思えたのはやはり自分のデザインの軸は24SSで一度まとめられているということが確信としてあったからだ。「エレガントな造形」に目を向けてもらう契機として、その上に乗る色使いはもっと自由でもいいのではないか。「ドレスシューズがfanとinterest=おもろいもの」と感じてもらえるキッカケになり、全く予想もしない人たちに届くキッカケになるのではないかと思い至った。
24AWと25SSは坂倉圭一さんに写真をお願いした。ファッションと工芸への視点と、原田さんの写真とはまた違うリアリズムとロマンティシズムのバランスに惹かれてのことだった。
25AW 【add my wordrobe】
24AW の力強さと25SSのはっきりとした色彩を引き継いで二つの軸を持った展開となった。
25SSから地続きの色彩はクリーンなブラウンを。カジュアルな素材として定着しているブラウンとキャメルのスエードをエレガントなSide Zip Bootsに乗せたらどう見えるか。スエード特有の膨らみ感は抑えられ、ほどよく緊張感を持った一足に仕上がった。
一転して黒はこれまであまり取り入れてこなかった濁ったような黒色。吟面が荒く起毛がかった質感は土臭く、輪郭を引き締めることなく幅広く日常生活に溶け込むような雰囲気を目指した。優美でありたいという理想と、毎日の生活はそういられないという現実を切り取るような気持ちがあった。
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靴は工芸とファッションが混ざり合ったコンプレックスだ。道具性とファッション性、過ぎ去った時間を伝統と呼ぶか過去と呼ぶか。常に2つの要素の狭間にある。ラディカルに変化してきたように見えるこの3シーズンも一貫して自己と他者、エゴとメタの間を彷徨ってきた。
2018年秋にひっそりと始まり、バイヤーが1人も来なかった19SS。初めに作ったRe-luxは今なお不動の人気で、ブランドの顔として自分の中でも変わらず新鮮さを保っている。23SSのTear Pumpsもブランドの顔になりつつあるし、Mil-DressとNormは常にその脇を支えている。キャラクターの立った製品たちは自ずと立ち位置が定まり、いいチームワークを見せている。誰にでもハマるものばかりよりも、誰かには強烈にハマるものが存在する方が面白い。
Re-luxの製造を主に担当してもらってる職人さんと冗談混じりでこんな話をした。
「Re-luxという靴のデザインカテゴリーが出来るといいね。」
半分冗談半分本気。
続けていけばそういう日が来るかもしれない。
「どうしたいのか。どういうブランドにしたいのか」と聞かれることがたびたびある。
「長く続けていきたい」と答えるようになった。
高く登ろうとも早く登ろうとも思わないが、遠くに行きたいと思う。
物性が安定しない革という素材囲って多くの人間が関わる靴というプロダクトはトラブルまみれで終わりもない。
一歩一歩歩き続けるしかないが、歩いていくには飽きなくて良い。