Note

手袋ものがたり-3-

メーカー内のよく整頓された工場を見て回る。
アジアにも工場があり、スポーツものなどロットの多いものはそちらでも製造される。なので、本社内の職人がとても多いわけではない。
特に先述したオールレザーのドレスものに関してはそこまでの数ではないので全て本社工場内で製造している。
アジアからの職人さんもおり、ゆくゆく彼女は地元の工場に帰って技術を教える立場になるそう。

手袋ならではの機械もあれば、普通の平縫いミシンで縫えてしまうそうで、「服なんだな」と感じた。
指に履かせるズボン。手に着せる服。
5本に枝分かれする指を的確に覆うための立体的なパターンをどこでどう接ぐか。
服のパターンのことは知らないけど、きっとそういうことだと感じた。

*写真は、Dress-Glovesの甲の手縫いをするために双子穴を開けるためのミシン。
使わなくなった古いミシンの先に2連ポンチをつけて改造を施してある。靴でもたまにあるミシン。

企画を手渡し、問題なく実現できるとのことで一安心。
数週間後に出来上がってきた1stサンプルは想像以上に出来がよく、見て良し使ってみて良し。
“なんとなく満足できていない手袋”からの決別を想像できたの瞬間だった。

とはいえ、そこからは革の厚みを0.何ミリにするかの調整。
紳士靴はだいたい1.2mm超で、ライニングや芯もあるので、0.01mm単位ではさして変わらない。あくまで0.1mm単位(コンマ1ミリ)の調整。
しかし手袋の場合、コンマレイなんミリの違いは結構変わるとわかった。
(実際には漉き機の具合で完全無欠にコントロールできるわけではないが。)

それと同時に指の可動に関するパターンも調整してもらう。
指が5本=股が4箇所。ズボンの股と同じで負荷がかかる箇所を入念に。

2nd、3rd。大急ぎで何度も修正してもらい、サンプルは完成した。

大きなキッカケさえあれば半年もかからずに企画が実現したのだからあっという間な気もするが、ひとつひとつのピースは長い時間をかけて偶然に重なり合ってきたものだ。
硬い革を好んで使うことの多い私にとって、視界に入りながらずっと意識の外に置いていたエントレフィーノラムとディアレザーという革もそう。

23SSで“軽やかで柔らかな手触りの革”の活かし方を模索して生まれたTear Pumps。
それがなければラムスエードを再発見することはなかったし、今回採用したフィンランドディアの素晴らしい素仕上げの手触りに触れなければ、ディアレザーそのものの良さを正しく認識することもなかった。
半ばあてもないまま札幌で受注会をしなければ軍モノの手袋を見つけることもなかったし、寒い札幌で素手で傘をさす辛さを思い出さなければ慌てて手袋メーカーに連絡しようともしなかっただろう。
そんな風にしてアイデアと作り手が出会うべきして出会うことで、ものづくりは進んでいく。

Post Productionの手袋は私が縫っているわけではない。
工場の職人さんが縫っている。
年齢も国籍も性別も様々。
ミシンも手縫いも、手法は様々だが、みな同様に手仕事の人である。

日本で生活する我々のために、日本の冬に着けたい手袋を、日本で作る。

これが私が実現したかった冬の姿。

「良いものをつくる、その先を想像する。」-Post Production-